マルチプレックスIHCを解読する


Posted by CSTジャパン on 2018/12/15 6:00:00


近年、腫瘍微小環境における免疫チェックポイントタンパク質の研究が盛んに行われています。腫瘍免疫学の分野で研究をされている場合、マルチプレックスIHC (mIHC) を実施中、あるいは計画中なのではないでしょうか。下図のように、マルチプレックス画像は、各抗体を異なる蛍光シグナルに対応させることで腫瘍の多層描写を可能にします。IHCでより多くのターゲットを検出したいけれどmIHCのためにどう抗体と蛍光色素のパネルをデザインするかお悩みなら、ぜひ本ブログをご覧ください。

Breast carcinoma tissue probed with a T cell exhaustion antibody panel乳がん組織の6色mIHC解析。PD-1 #86163 (緑)、TIM-3 #45208 (黄)、LAG-3 #15372 (マゼンダ)、CD8 #70306 (オレンジ)、pan-Keratin #4545 (シアン)、DAPI (核染色、青)。

マルチプレックスIHC:腫瘍微小環境

mIHCによる腫瘍の可視化により、免疫細胞の浸潤の特徴を明らかにし、仮説を新しい方法で証明することができるようになりました。例えば、T細胞は主に腫瘍辺縁部、浸潤性縁部、あるいは腫瘍内部に存在しますか?存在するT細胞は疲弊マーカーを発現していますか?PD-1陽性/CD8陽性T細胞はPD-L1陽性マクロファージにどれくらい近接していますか?腫瘍内のCD8陽性T細胞は活性化していますか?このような質問は、PD-1阻害療法の応答率の理解や、PD-L1を主要なバイオマーカーとして位置付ける上で重要です。

マルチプレックス染色のパネルデザイン

mIHCパネルデザインでは、多くの考慮すべきファクターがあります。チラミドベースのマルチプレックス染色は、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織で強いシグナルを得る最も簡単な方法かもしれません。組織サンプル、IHC検証済みの抗体、そして蛍光標識されたチラミドがあれば、プロトコールを組むことができます。考慮すべき最大のファクターの一つは必要抗体量ですが、多くの場合、DABなどの色素を用いる系と比較すると、より少ない抗体量で済みます。

各抗体の相対的な染色強度がわかったら、最終的なパネルでバランスのとれたシグナルが得られるように、最良の方法を検討する必要があります。最も染色強度が強く存在量も多いターゲットに対する抗体には最も輝度の弱い蛍光標識チラミドを、最も染色強度が弱い抗体には最も明るい蛍光色素を使用するのが理想的です。

mIHCのプロトコールでは、各染色ラウンドの間で、一次抗体と二次抗体を除去するために加熱処理を行います。この工程は、最良の方法を検討していく上で考慮すべきファクターです。エピトープによっては、加熱処理の影響をほとんど受けないものもあれば、逆に感受性が高く、染色ラウンドごとの加熱処理によって分解されて徐々にシグナルが減弱してしまうものもあります。一方で、加熱処理を繰り返すことによってエピトープがますます露出し、シグナルが増強されるものもあります。このようなエピトープに対する抗体の場合は、最後に染色するようにします。

エピトープマスキングを回避する方法

エピトープマスキングと呼ばれる現象は、マルチプレックスで正確な染色を行う際に解決しなければならない厄介な問題の一つです。この現象は、組織内の同じ細胞の同じ細胞内区画に存在するエピトープに対する抗体を複数使用する場合に起こり得ます。チラミドはパネル中の最初のエピトープの上に沈着するため、その後の染色で染色したいエピトープが覆い隠されてしまう可能性があります。下図の例では、マウス同種移植モデルの免疫細胞の浸潤を解析するパネルにおいてCD3とCD8のシグナルの重複がほとんどないことに私たちは違和感を覚えました。

Mouse 4T1 lung metastasis probed with CD8 and CD34T1マウス乳がんの肺転移 (マウス同種腫瘍モデル) のmIHC解析。CD3ε (D4V8L) Rabbit mAb #99940 (緑)、CD8α (D4W2Z) XP® Rabbit mAb (Mouse Specific) #98941 (赤)。青= DAPI。CD8抗体で先に染色。

上図を見ると、CD8陽性T細胞の赤色のシグナルは、視野内のCD3陽性細胞の緑色とほとんど重なっていません。腫瘍内に浸潤する細胞サブセットに樹状細胞やNK細胞などのCD8陽性CD3陰性細胞も存在はしますが、CD8陽性細胞の大半がこのカテゴリーにはいるとは考えられません。CD3、CD8抗体ともに、小さなT細胞の細胞膜を染色すると予想されることから、エピトープマスキングが起こっている可能性が高いと考えられます。

エピトープマスキングの対処法はいくつかあり、多くの場合、染色の順番を変更するだけで解決できます。今回のCD3/CD28の例もまさにそうで、下図に示すように、CD3を先に染色すると、2つのターゲット間でのシグナル重複は予想通りの頻度で観察されるようになりました。

Mouse 4T1 lung metastasis probed with CD3 and CD84T1マウス乳がんの肺転移 (マウス同種腫瘍モデル) のmIHC解析。CD3ε (D4V8L) Rabbit mAb #99940 (緑)、CD8α (D4W2Z) XP® Rabbit mAb (Mouse Specific) #98941 (赤)。青= DAPI。CD3ε抗体で先に染色。

タンパク質の発現レベルはタンパク質によって大きく異なっており、高発現であれば、前ラウンドの染色で蓄積したチラミドによってエピトープがマスクされてしまう可能性は低くなります。エピトープ内のチロシン残基の量によっても、チラミド蓄積によるマスキングの程度が増減する可能性があります。

染色の順番の変更だけではエピトープマスキングの問題を十分に軽減できない場合、他のアプローチによってターゲット間のシグナルバランスを調整することができます。これらのアプローチには、例えば、二次抗体のタイトレーションや蛍光標識チラミドのタイトレーション、二次抗体と蛍光標識チラミドの反応時間の最適化、などが挙げられます。

特定の細胞種に存在すると予想されるマーカーがほとんど染色されない場合であれば、エピトープマスキングに気づくのは簡単ですが、そうでない場合はなかなか気づきにくいかもしれません。例えば、T細胞疲弊のマーカーはT細胞の細胞膜上に局在しますが、常に存在するとは限らず、また、腫瘍ごとにその発現レベルも異なります。

mIHC T cell exhaustion Fig 2小細胞肺がんのT細胞疲弊マーカー6つと核染色 (DAPI) によるmIHC解析。7チャンネルのマルチプレックス画像 (左上) の一部について (白枠) それぞれのチャンネルの画像を示した。

パネルの最適化:マルチプレックスとシングルプレックスの比較

エピトープマスキングや他のファクターによって染色レベルが低下していないことを確認するため、最適な条件であると設定した条件で染色したマルチプレックススライドと共に、シングルプレックススライドの染色も行うことをお勧めします。パネルを完全に最適化する前に、マルチプレックスとシングルプレックスのスライドを比較して、それぞれのターゲットで陽性に染色された細胞の数が大幅に増減していないことを確認してください。この確認を行うことで、エピトープマスキングを早期に発見できるだけでなく、マルチプレックス染色サンプル中における各ターゲットのシグナルレベルが生物学的に正しいかどうかも担保することができます。

CSTは、mIHCの実験に役立つ様々な研究ツールアプリケーションノート、そしてテクニカルサポートをご用意しています。

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