Journal Club | Bivalentヌクレオソームのゲノムアドレス


Posted by CSTジャパン on 2017/06/15 6:00:00


遺伝子やその調節エレメントの活性は、ある程度、その細胞種に特異的なクロマチン状態により制御されます。クロマチンを構成するヌクレオソームは、遺伝子の発現調節に関わる多くの翻訳後修飾を受けるヒストンタンパク質のコアに巻き付けられています。

個々のヒストンは転写活性型の修飾あるいは転写抑制型の修飾を受けますが、この2つのタイプの修飾が共存することもあります。そのような二重または組み合わせの修飾は、特定の細胞集団において共通して観察されます。

今日においても、ゲノムの特定の領域にある個々のヌクレオソームが、クロマチンの活性化状態と抑制化状態の両方を示す、組み合わせのヒストン修飾を有するかどうかを決定するための信頼できる方法はありません。

2016年5月6日のサイエンス誌において、Shemaおよびマサチューセッツ総合病院とハーバード・メディカル・スクールの同僚によって、ハイスループット蛍光一分子アプローチにより個々のヌクレオソームのヒストン修飾とゲノムの局在化を同定する新たなアプローチが報告されました。その記事のタイトルは、「組み合わせ修飾ヌクレオソームの一分子解読」です。

クロマチン免疫沈降 (ChIP) は、一般的に、遺伝子発現制御に関与するヒストン修飾を調べるために用いられます。ChIPによりクロマチン修飾のおおよそのゲノム上の位置を同定することができる一方で、それはヌクレオソームレベルでのエピジェネティック標識の検出に必要な解像度がありません。質量分析は、この点でより高感度ですが、断片化した同じヒストンペプチドの修飾を検出することができるだけでゲノム位置に関する情報を欠いています。

Shemaらは、特定のヒストン修飾を検出する標識モノクローナル抗体を使用し、全反射照明蛍光 (TIRF) 顕微鏡によるモノヌクレオソームの分離、固定化、ならびに可視化に基づき、一分子アプローチをデザインすることによってこれらの制限に対処しています。

実験デザインの概要:

  1. マイクロコッカルヌクレアーゼ消化によるヌクレオソームの単離
  2. 遊離したDNA末端と蛍光標識したビオチン化アダプター・オリゴヌクレオチドの結合
  3. PEG (ポリエチレングリコール) とストレプトレアビジンを塗布したスライド上でのアダプター連結蛍光モノヌクレオソームの捕捉
  4. アダプター分子のフルオロフォアの開裂後、TIRF顕微鏡によるモノヌクレオソームの可視化およびスライド上の位置の記録
  5. 特定のヒストン修飾を検出する蛍光標識抗体と、捕捉したモノヌクレオソームのインキュベーション
  6. タイムラプスTIRF顕微鏡により抗体結合と解離の観察を繰り返し行い、修飾毎のポジティブ/ネガティブ・ヌクレオソームを適切にスコアリング
  7. ヒストン修飾を特定のゲノム上にマッピングするための、一分子の配列決定

 


原理の証明:

アセチル化Histone H3 Lysine 9 (H3K9ac) の基底レベルは、一分子アプローチによりヒトのHEK293細胞で評価が行われました。何百万個ものヌクレオソームを個々に調査し、その全ヌクレオソームの1%がこの修飾を受けていることが明らかとなりました。予想されたとおり、この数はヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害剤で細胞処理することにより7%まで増加しました。ネガティブコントロールとして、H3K9ac発現に対する組換え型未修飾ヌクレオソームの試験を行い、ポジティブとしてスコアされたヌクレオソームはたったの0.1%でした。さらに、H3K4me3、H3K27me3、H3K27me2、およびH3K27acの標識に対してヌクレオソームのスコア化を行いました。これらの修飾は組換え型未修飾ヌクレオソームについても交差試験が行われ、アッセイの特異性を確認しました。

主要な事実認定

1. Bivalentヌクレオソームは多能性胚幹細胞 (ESCs) で広範に観察される: 

ESCsからのヌクレオソーム、ならびに分化系列決定を行った後のヌクレオソームは、Bivalentヌクレオソームを有するとスコアされました。「Bivalent」という用語は、転写抑制と転写活性の両方のヒストン標識を同時に有するクロマチン領域のことであり、典型的にはH3K27me3およびH3K4me3修飾にそれぞれ対応します。以前の文献では、そのような対立する修飾の共存がESCsの発生遺伝子プロモーターで観察されることが示唆され、これらの遺伝子は、ある特性により選択的系列分布図によく対応していたと報告されていました。そのような標識が同じヌクレオソームに属しているという決定的証拠はありませんが、この現象は、同時に行われたChIPおよびIP質量分析実験により裏付けられています。このため、この研究では一分子アプローチによる取り組みが行われました。

TIRFイメージングにより、調査対象の全ヌクレオソームの約6.5%がH3K27me3を、2%がH3K4me3を有しており、その両方の標識を保有しているのはわずか0.5%であることが明らかとなりました。著者は、後者のサブセットが本当にBivalentであると結論づけました。さらに、そのようなヌクレオソームは予想されたとおり、分化した細胞ではあまり見られないということが明らかとなりました。

さらに、エンハンサー (H3K27ac) や遺伝子間領域 (H3K27me2) を活性化する修飾など、多様な組み合わせの修飾セットの観察が、それぞれ、転写抑制H3K27me3および転写活性H3K4me3標識との組み合わせで行われました。これにより、ESCsおよび分化系列決定細胞 (肺線維芽細胞) の両方から調製されたクロマチンで、H3K4me3とH3K27acの2つの活性化標識のペアワイズ・コンビネーションをはっきりと示していることがわかりました。しかし、Bivalentクロマチンを示したのはESCsのみであり、著者はESCクロマチンの極めてダイナミックな性質に関係があるのではないかと推測しています。

2. Bivalentヌクレオソームは特定のがんで多く見られる:

これまで、ESCsのBivalentクロマチンを有するゲノム位置ががん細胞で脱調節されることが示されてきました。Shemaらはそれを考慮に入れて、リンパ腫細胞株Karpas 422など数種類のがん細胞株の検査を行いました。Karpas 422細胞は、H3K27の高レベルのトリメチル化を引き起こす、タンパク質の触媒活性を増やすEZH2遺伝子中に機能獲得型変異を有します。検査の結果、Karpas 422細胞のヌクレオソームを含むH3K4me3の50%がH3K27me3でも修飾を受けることが明らかとなりました。著者は、Bivalentヌクレオソームの割合がこれら2つの標識の任意または人為的な共通部位からの期待値より4倍大きいと見ており、このことはH3K4me3を含むヌクレオソームをEZH2が優先的にメチル化していることを示唆しています。そして、これを更に検証するために、Karpas 422細胞をEZH2阻害剤で処理してBivalentヌクレオソームの発生頻度を観察しました。その結果、Bivalentヌクレオソームの優先的な減少が観察され、さらに一分子アプローチでも検証されました。

3. クロマチンの調節剤が組み合わせヒストン標識の発生頻度に影響する:

pan-HDAC阻害剤による処理は、H3K9acおよびH3K27acのアセチル化レベルを、H3K4me3活性化標識を付けたヌクレオソームで優先的に上昇させます。これは活性化しているプロモーターで見られるヒストンアセチル化の機能と一致します。ところが、p300ヒストンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤は、H3K4me3ヌクレオソームに対して均一にアセチル化レベルを減少させており、プロモーター領域よりもむしろエンハンサー配列においてこの酵素の役割と一致します。

4. BivalentヌクレオソームからのDNAゲノムマッピング:

最後におろそかにできないのは、2008年にHarrisらにより最初に報告された、一分子DNA配列法を使用してゲノム内の特定の場所に個々のヌクレオソームに関与するDNAの配列と位置決定を行った研究です。この研究では上述のように、酵素消化によるヒストン転置の後、後に残る二本鎖ヌクレオソームDNAを用い、TIRF顕微鏡を使用してESCsの各ヌクレオソームの修飾状態を解読しました。

一分子の配列決定は、DNAポリメラーゼ、poly(A) テールテンプレートおよびPoly(dT) オリゴのケミカルライブラリーを利用して行われ、それらはテンプレートの捕捉に使用された後、短いリードをテンプレート方向へ合成するためのプライマーとして使用されます。この配列決定から発生したH3K27me3陽性ヌクレオソームに対する26,000の読み取りデータは、ChIPシークエンシング (ChIP-seq) によりH3K27me3が陽性であると同定されたゲノム領域に相互参照しました。また、この読み取りデータのほぼ50%が、H3K27me3標識のChIP-seqにより同定されたゲノム領域に整列しているということが明らかになりました。およそ1,000のリードが、とりわけRunx1およびNkd1のような発生に関与する遺伝子に位置する二重のH3K27me3およびH3K4me3標識のヌクレオソームと一致することが初めて確認され、個々のBivalentヌクレオソームのゲノムアドレスに対する決定的証拠となっています。

結論:

一分子の解像度でクロマチン形成に関する理解を深めるために、プロテオミクスおよびゲノムアプローチを活用した研究が活発に行われています。

この研究の調査結果の多くは必ずしも新しい事柄ではありませんが、記述された知見は以前の報告で推測され仮定されたものであり、Shemaとその同僚はこれらの推測をハイスループットに、最小のインプット材料で定量的に検証する強力な方法を提唱しています。

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