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がんの特性:細胞エネルギー代謝の調節解除


Posted by CSTジャパン on 2019/07/15 6:00:00


がん細胞は盛んに増殖しており、大量のエネルギーを消費します。このため、がん細胞では特殊なエネルギー代謝がみられます。

ほとんどの哺乳動物細胞でグルコースが燃料源として利用されています。グルコースは解糖系で多段階の反応を経て代謝され、ピルビン酸が生成されます。細胞のエネルギー需要を満たすため、有酸素下では通常このピルビン酸の大部分がミトコンドリアに入り、クレブス回路で酸化されATPが産生されます。

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ところが、がん細胞をはじめとする盛んに増殖する細胞では解糖系で生成されたピルビン酸の大部分がミトコンドリアに入らず、乳酸脱水素酵素 (LDH/LDHA) の作用で乳酸に変換されます。これは通常、低酸素下でみられるプロセスです。

ミトコンドリアを介した解糖プロセスに対し、有酸素下で乳酸が産生される現象を「好気的解糖」または「ワールブルグ効果」と呼びます。ワールブルグ効果などのがん細胞でみられる代謝の表現型には、PI3K/AktmTORErk1/2 MAPKULK (オートファジー)p53HIF-1α (低酸素−血管新生)AMPKなどが関与しており、様々なパスウェイが影響を及ぼします (ページ下部のリンクからパスウェイ図をご確認いただけます)。

解糖系に並ぶがん細胞におけるエネルギー産生のもう1つの柱としてグルタミン分解が知られています。グルタミンはミトコンドリアに入り、グルタミン酸を経てα-ケトグルタル酸 (クレブス回路の中間産物) に変換され、また、リンゴ酸酵素を介した (解糖系とは別口の) ピルビン酸の供給、細胞増殖に必要な細胞構成成分 (核酸や脂肪酸など) の供給に利用されます。

がん細胞は重度にグルタミンに依存しグルタミン自身が細胞増殖を促進し得るようになります。このため、がんの研究においてグルタミン代謝がホットな研究領域になりつつあります。また、解糖系は様々な要因に影響される非常に複雑なプロセスで、多くのパスウェイを解析する必要があります。こちらのリンクからこれらのシグナル伝達に関わる分子をご確認ください。

がんの特性 (Hallmarks of cancer) はRobert Weinberg博士とDouglas Hanahan博士によって提唱され、2000年のCell誌に発表されたものです。彼らは複雑ながんの性質を、より小さな特性 (増殖シグナルの維持、増殖抑制の回避、無秩序な複製による不死化、浸潤能および転移能の活性化、血管新生の誘導、細胞死への抵抗性) に細分化して捉えることを提案しています。また、2000年以降の研究成果を踏まえ、これらは同博士らによって2011年に更新され、新たに4つの特性 (免疫による除去の回避、炎症の促進、ゲノムの不安定化と変異、細胞エネルギー代謝の調節解除) が加えられました。今回の記事では、これらの特性の一部について記載しました。本シリーズの他の記事では、今回触れなかった他の特性についても触れていきます。

1  Hanahan D, Weinberg RA (January 2000). "The Hallmarks of Cancer". Cell. 100 (1): 57–70. doi:10.1016/S0092-8674(00)81683-9

2  Hanahan D, Weinberg RA (March 2011). "Hallmarks of Cancer: the next generation". Cell. 144 (5):646-74. doi: 10.1016/j.cell.2011.02.013

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