ネクロプトーシスとパイロトーシスの研究で深まるアポトーシスによる細胞死の理解


Posted by CSTジャパン on 2019/04/15 6:00:00


最近50年余り、研究室では細胞死に関するプロセスを、実験を通じて論じることができるようになりました。初期の研究では、細胞死は形態的特徴からアポトーシスとネクローシスへ分類されていましたが、研究が進むにつれて、アポトーシスはCaspase-3、Bcl-2、Fasといったタンパク質に厳密に制御される「プログラムされた」細胞死であることが分かってきました。一方、ネクローシスは当初、厳密な制御の難しい、プログラムされない細胞死であると考えられていましたが、近年では、細胞死には当初予想されていたよりはるかに多くの細胞内シグナル伝達経路が関わっていることが分かってきました。

18-CEL-47529 Necrosis Blog

細胞の膨張や細胞膜への孔の形成、細胞膜の崩壊といった、形態学的にネクローシスの特徴を持ちながら、「制御された」細胞死の代表として、ネクロプトーシスとパイロトーシスの2つが知られています。ここ数年の研究で、「制御された」ネクローシス様の細胞死が、生理病理学的に多くの役割を持つことが明らかになり、医療分野への応用が期待されるようになりました。これらのプロセスでは、細胞膜の崩壊によってHMGB1や、炎症性サイトカインIL-1β、IL-18といったダメージ関連分子パターン (DAMPs) と呼ばれる分子群が細胞から放出され、炎症反応が惹起されます。

ネクロプトーシスはアポトーシスが抑制された環境において活性化される細胞防御経路であり、MLKL偽キナーゼをリン酸化するRIPK3の活性化によって引き起こされます。MLKLは、Ser358 (マウスではSer345) がリン酸化されると多量体化し、孔形成複合体 (pore-forming complex) を形成します。MLKL poreはカチオンチャネルを形成し、細胞膜の崩壊とDAMPsの分泌を、さらに促進します。RIPK3は、RHIM (RIP homotypic interaction motif) ドメインを介してRIPK1、TRIF、ZBP1/DAIと相互作用することでSer227 (マウスではThr231/Ser232) がリン酸化され、活性化します。TNFファミリーによるネクロプトーシスの誘導では、RIPK1の自己リン酸化 (Ser166など) がこれらのシグナル伝達に必要であることが分かっており、RIPK1のインヒビターであるNecrostatin (Nec-1, Nec-1s) はこの経路を阻害します。

一方、DNAウイルスによるZBP1/DAIの活性化や、TRIFによるTLR (Toll-like receptor) の動員といった自然免疫応答によってもRIPK3の活性化が起こります。これは、病原体がアポトーシスを阻害した場合に、代替の細胞死誘導機構としてネクロプトーシスが活性化されると捉えることができます。RIPK1とRIPK3はCaspase-8による切断を受けることが知られており、アポトーシスはネクロプトーシスを抑制すると考えられます。ネクロプトーシスによって放出されるDAMPsはパイロトーシスや炎症反応を引き起こします。

パイロトーシスとネクロプトーシスにはいくつか類似点がありますが、ネクロプトーシスが、アポトーシスが阻害された場合に細胞死を実行する、第二の機構だと考えられているのに対し、パイロトーシスは一般に、感染性生物に対する第一の反応だと考えられています。パイロトーシスは、微生物病原体で発現する病原体関連分子パターン (PAMPs) や細胞由来のDAMPsによって、単球、マクロファージ、樹状細胞といった自然免疫細胞で起こります。パイロトーシスではCaspase-1が活性化され、IL-1βやIL-18などの炎症性サイトカインの切断や活性化、孔形成タンパク質Gasdermin Dの切断を行います。

Gasdermin Dは切断されるとN末端フラングメントが多量体化し、MLKLと同様に (MLKLより大きな) 孔を形成し、炎症を引き起こすDAMPsやサイトカインが分泌されるようになります。このとき、Caspase-1は様々なインフラマソーム複合体形成 (典型的には、パターン認識受容体 [NLRまたはAIM2様ファミリーメンバー]、アダプタータンパク質 [ASC/TMS1] および、前駆体Caspase-1からなる) を介して活性化されます。個々のインフラマソームは別個のDAMPsや PAMPsを認識し、パイロトーシスを誘導します。NLRのうち、最も解析が進んでいるNLRP3の経路では、パイロトーシスは2つの段階を経て起こることが分かっています。第一段階では、NF-κBが活性化され、インフラマソームの構成成分であるNLRP3や前駆体IL-1β、前駆体IL-18の発現が誘導されます。第二段階ではCaspase-1が活性化され、Gasdermin Dや炎症性サイトカインが、切断されることで活性化します。

制御されたネクローシスのシグナル伝達経路の研究は、主に感染症に関連づけて行われてきましたが、この他にも、神経変性疾患、自己免疫疾患、がん、代謝性疾患、循環器疾患、肝臓や膵臓、腸などの各種臓器における炎症や慢性炎症疾患など、広範囲の病理学的意義を持つことが明らかになりつつあります。このため、ネクロプトーシスやパイロトーシスを制御する経路は、重要なバイオマーカーや分子医療の標的を含むポテンシャルを秘めており、医療分野への応用が期待されています。現在、関節炎やその他の炎症性疾患の治療のため、IL-1βおよびその受容体を標的とした分子標的医療が実用化されていますが、これらは普遍的に免疫を抑制し得るという問題点もあります。NLRや炎症性Caspaseなどのインフラマソームの阻害は、より標的を絞ったアプローチであると考えることができ、より広範囲に適用可能な治療薬の開発に繋がる可能性があります。また、RIPK1、RIPK3、MLKLを標的としたネクロプトーシス阻害剤の開発も進んでおり、神経変性疾患および炎症性疾患に効果が見込まれるRIPK1阻害剤は、既に臨床試験が実施されています。これらの経路の研究は、多くの疾患の治療法の開発や病態理解に大きく貢献するものと期待されています。

アポトーシスシグナル制御に関する詳細はこちらをご覧ください。

PMID 29593066
PMID 30341423
PMID 27932073
PMID 27999438
PMID 18437888

 

Topics: Cell Biology

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