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細胞老化とは?


Posted by CSTジャパン on 2019/09/15 6:00:00


細胞老化 (senescence) の大きな特徴は、永続的な細胞周期の停止です。老化した細胞は年齢とともに蓄積され、一般的な加齢プロセスや加齢に関連した疾患に関与します。現在、細胞老化と加齢、加齢に関連した疾患 (がん、神経変性疾患、代謝性疾患、循環器疾患など) のつながりを解明する研究が、大変注目されています。

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細胞老化はHayflick博士とMoorhead博士によって発見された現象で、培養した細胞が有限回数の複製の後、増殖を止めて永続的な細胞周期の停止状態に入ることを指します (複製老化)。これは、細胞分裂を重ねてテロメアが短縮することでDNA損傷応答 (DDR) が活性化され、細胞周期の停止が起こるためであると考えられています。

これまでに、がん遺伝子の発現や酸化ストレスのほか、ある種の化学療法などのストレスに応答して細胞老化が誘導されることが分かっており、また、老化した細胞は種々の生理活性物質を分泌する性質 (SASP:Senescent Associated Secretory Phenotype) を獲得することも示されています。したがって、細胞老化は、「ストレスによって誘導される、分泌現象を伴う安定的な細胞周期の停止」と捉えられています。

多くの場合、細胞老化に伴う細胞周期の停止は、持続的なDNA損傷によりp53-p21 Waf1/Cip1経路またはRb-p16 INK4A経路が活性化され、CDK (cyclin dependent kinase) が阻害されることによって起こります。OIS (oncogene-induced senescence) は、がん遺伝子の活性化またはがん抑制遺伝子の不活化によって引き起こされる持続的な細胞増殖の抑制反応です。がん化前の細胞が細胞周期から離脱するという細胞応答は、発がんに対する防御機構の一つとして機能すると考えられます。化学療法に用いる薬剤も、DDRを誘導して細胞老化の原因となることがあります。マウスモデルで老化細胞を除去した研究の成果から、化学療法による倦怠感の原因が老化した細胞の蓄積だとする指摘もあります。

SASPは、老化細胞がサイトカインや増殖因子、プロテアーゼなどを産生して分泌する現象で、分泌物の構成成分は、細胞や組織、老化を誘導した刺激の種類によって大きく異なります。この分泌物が周辺の細胞や免疫系に働きかけ、最終的に老化した細胞の運命決定に影響を及ぼします。一例として、SASPによって老化細胞に免疫細胞がリクルートされ、老化細胞の除去を促進する (すなわち、がんを抑制する) という現象が報告されています。ところが、これとは反対に、SASPが生理活性物質の分泌を介して血管新生や細胞外基質の再編成、上皮間葉転換 (EMT) などを促進する (すなわち、がんを促進する) という報告もあります。

老化した細胞の特定

注意しなければならない点として、現在、細胞の老化の普遍的なマーカーが存在しないことが挙げられます。細胞老化を誘導する刺激、細胞の種類、タイミングなどにより老化した細胞で発現するマーカーは異なるので、細胞老化の表現型を決定する場合は複数の細胞老化関連因子を調べる必要があります。

老化細胞の特定によく用いられるマーカーとして、老化による細胞周期停止に関連する分子が挙げられます。例えば、CDK阻害タンパク質p16INK4Aやp21Cip1の発現、53BP1やγ-H2A.XといったDNA修復タンパク質の染色で見られるDNA損傷部位を示す斑点、あるいは本来増殖中の細胞で見られるKi67の消失などがこれに当たります。

また、TNFα、IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、マトリクスメタロプロテアーゼ (MMP) の発現亢進や、HMGB1の核局在性の消失といったSASP関連分子の挙動も老化細胞のマーカーとしてよく利用されています。

このほか、リソソームの内容量・活性の変化によるSA-β-gal (senescence-associated β-galactosidase) 活性や、核エンベロープの変化によるLamin B1の消失、SBB (Sudan Black B) で検出されるLipofuscinの増加、細胞体の拡大・扁平化といった細胞形態の変化などが細胞老化の指標となります。

さらに、広範囲なエピジェネティクスの再構成によって老化細胞が分類されることもあります。HIRAやASF1Aといったクロマチン再構成因子がヒストンH3の9番目のリジン残基のトリメチル化レベルを増加させ、老化細胞に特有のクロマチン構造SAHF (senescence-associated heterochromatin foci) を形成します。

加齢と疾患

細胞の老化は腫瘍の防止、発生段階におけるリモデリング、創傷治癒などにおいて有益な作用が知られていますが、一生涯を通して起こる老化細胞の蓄積は、加齢 (個体レベルでの老化) 現象や、加齢に関連した疾患に関与することも知られています。老化細胞は組織年齢に伴って蓄積し、免疫系による除去が起こらなければ、がん、循環器疾患、アテローム性動脈硬化、2型糖尿病など、様々な加齢に関連した病態に寄与します。

加齢組織における老化細胞の有害な作用の主な原因の1つにSASP因子があると考えられています。炎症性の環境を構築するほか、SASP因子は傍分泌的に機能して周辺組織の再生能力を阻害することが分かってきています。

マウスモデルの研究成果から、老化細胞を除去することで生存期間が延び、健康寿命も向上することが分かっています。老化した細胞ではある種の抗アポトーシス経路が活性化し、細胞周期チェックポイント機構が誘導する細胞死に抵抗性を持ちますが、この経路を分子標的として、老化細胞を除去する薬剤 (セノリティクス) が開発されています。現在、加齢に関連する疾患を対象に、セノリティクスの臨床試験が行われています。

細胞老化に関する詳細はこちら >>

参考文献 (総説)

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Topics: Cell Biology

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