ストレス顆粒 (SG) は、急性の生物学的および非生物学的ストレスに応答して形成されます。ストレス要因には、毒物への暴露や酸化ストレス、ウイルス感染、栄養不足、UV照射などが挙げられますが、これらだけではありません1。細胞はこれらのストレス要因に応答し、正常なタンパク質の翻訳を中断します。通常、PKR (Protein kinase R) やPERK (Protein kinase RNA-like ER kinase)、GCN2 (General control nonderepressible 2)、HRI (Heme-regulated inhibitor) によるeIF2αのリン酸化が、翻訳開始前複合体 (PIC) を阻害します1。 さらに、mTORの不活性化がeIF4結合タンパク質の活性を高め、eIF4翻訳複合体の形成を阻害します2。続いて、翻訳リボソームがPICから解離し、メッセンジャーRNA (mRNA) と40Sサブユニットが露出した、非標準的なPICが形成されます。TIA-1/RT (T-cell restricted intracellular antigen-1/TIA-1-related protein) やG3BP1/2 (G3BP stress granule assembly factor 1/2) などの、SG形成の核となる標準的なRNA結合タンパク質 (RBP) がPICにリクルートされますが、他の核形成タンパク質もこの役割を担います。これらのリクルートとRNAの転写後修飾や核形成タンパク質の翻訳後修飾が連動して、「SGコア」または「SGシード」の形成を促進します。このSGシードは比較的安定しており、他のSGシードと多量体を形成し、より大きなSGの複合体を形成すると考えられています。
SGは、主に液液相分離 (LLPS) により形成されるため3、SGの大きさや形状、構造は、様々なシードの性質により異なります。LLPSにより形成されたSGは、RNAやRBP、アダプター/足場タンパク質、酵素などのシードの組成による影響を強く受けます4。また、SG形成を誘導するストレスの種類は1、RNAの転写後修飾やRBPの翻訳後修飾 (PTM) と同様に、シードの組成に影響を与えます。SGの組成が非常に変化しやすいことに加え、立体障害や静電相互作用、ラプラス圧などの要因もまたSGの大きさと形状にさ重要な影響を与えます。局所的なシード濃度の上昇と、シード間の微弱な低親和性の相互作用がシードの合体を促進します。
SGのリクルートや複合体の形成、調節に不可欠なタンパク質が、既に数多く同定されています。PABP1 (Poly(A) binding protein cytoplasmic 1) は、mRNAの安定性と翻訳か開始において極めて重要な調節因子であり、SGの主要な構成因子です。これは、SG形成の初期にリクルートされ、しばしば動的に活性化し、SGの内外を往復します5。同様に、ATXN2 (Ataxin-2) もmRNAの安定性と翻訳を促進しており、SGの核を形成する構成因子です6。UBAP2L (Ubiquitin associated protein2like) は、SGの複合体形成に不可欠であり、特定の条件下でG3BP1の上流で機能することがあります。また、mRNP (messenger ribonucleoproteins) やRBP、リボソームのサブユニットのリクルートも担っています7。TIA1やFMRP (fragile X mental retardation protein)、その関連タンパク質であるNUFIP2 (FMR1 interacting protein2) などのUBAP2Lの下流にあるエフェクターも、mRNAやmRNPのSGへの局在化やリクルートを支援します8,9。抗アポトーシスタンパク質であるRBM3 (RNA binding protein motif3) もまた、SGの形成を促進し10、DDX1 (DEAD box 1) はRNAと結合して、様々なストレス条件下でSGへと移行します11。 興味深いことに、G3BP1/2はeIF2α/4A阻害に応答したSG形成に必要ですが、熱や浸透圧のストレスの場合には必要ありません。G3BP1/2とCaprin1タンパク質は複合体を形成し、CaprinはG3BP1/2のLLPSを促進します3。Caprin1だけではなくUSP10もG3BP1/2と、Caprin-G3BP1/2複合体と相互排他的に結合します。USP10の結合は、SG形成を阻害し、Caprinの結合はSG形成を促進します12。 YTHDF1/2/3はm6A修飾されたmRNAと結合します。YTHDF1/3は、G3BP1/2の集合体の周辺に蓄積し、YTHDF2は、SG内でG3BP1/2と共局在し、SG形成をさらに促進します13。
疾患関連RBPは、核から移行し、二次的な核形成を経てSGへとリクルートされます。この疾患関連RBPにはTDP43 (TAR DNA-binding protein43) が含まれており、G3BP1/2、14やRBPファミリーであるFET (FUS/TLS、EWS、TAF15) と強固に相互作用することでSG形成を調節します15。FUS (FUS RNA binding protein) とTAF15 (TATA-box binding protein associated factor15) は、ゲノムストレスに応答してSGへと移行します15,16。hnRNP A1 (Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein A1) は、高度にリン酸化された場合、移行および線維化し、LLPSを促進してタンパク質が豊富な液滴を形成することにより、SGの形成に寄与します17。
細胞ストレスが中断された場合、SGの分解を促進するために三元複合体がリクルートされます。オートファジータンパク質は、オートファジー小胞としてSGを包み込み分解を行う、グラニュロファジー (granulophagy:オートファジーによるストレス顆粒の分解) を介して分解を促進します。DDX1はこのプロセスの促進を支援しますが、必須ではありません11。SQSTM1 (Sequestosome 1) は、SGのオートファジー小胞への移行を促進します18,19。ATPaseであるVCP (Valosin-containing protein) は、ULK1/2 (Unc-51 like autophagy activating kinase 1/2) によるリン酸化を介して活性化され、SGのグラニュロファジーを促進します20。PICを再形成し、eIFタンパク質がリクルートされ、翻訳複合体の完全な再形成により翻訳が再開されます。
作成日:2022年8月